新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、世界中の生活様式が一変した。
人々は外出を控えるようになり、屋内外に関わらず一同に会することを避けるようになった。
他人と対面で会うことが忌避される風潮は、パンデミック前には誰一人として予想できなかったことであろう。
我々気象予報士学生会(以下「学生会」)も大きな影響を受けた。
2020年春、当時代表のとして2020年度のイベントの予定を立てていた私は、これまで対面を中心に実施してきた運営指針を一変。
オンライン会議システムを用いた運営への変更を余儀なくされた。
これまで遠隔地にいる学生をオンラインでつないだことはあったが、それでも他の参加者は1箇所に集まるというハイブリッド形式にとどまっていた。
完全オンラインでの開催形態の採用は、この年4月の定期食事会が初めてであった。
以降現在に至るまでパンデミックは収束しておらず、学生会のイベントはすべてオンライン形式での開催になっている。
オンライン形式での開催は学生会に何をもたらしたか。
小稿ではパンデミック前後の運営の両方を経験した立場から見てみることにしたい。
1.全国各地からの参加
パンデミック前のイベントは、地方支部主催のものを除きほとんどが首都圏での開催であった。
そのため、毎回のイベントに参加する人はほとんどが首都圏の在住であった。
当時から地方在住の学生が入会してくれたことは何度もあったが、彼らにとって参加しやすい環境が整っているとはお世辞にも言えなかった。
学生会には地方支部も存在するが、その支部の中心地に行くことすら大変な学生もいたであろう。
しかし、オンライン形式の導入によって、全国各地の学生が一同に集うことができる環境が予期せず整った。
家から出ずともインターネット回線さえ整っていれば気軽に参加できる。
日没後、関東では既に暗くなっているのに九州ではまだ明るい、というようなこともリアルタイムで感じることができ、盛り上がったこともあった。
全国どこからでも参加できることは明らかにプラス面なのだが、楽観的にもなれない。
重要な点の1つは、地方支部の存在意義である。
オンライン化の流れにより、首都圏での活動と地方支部での活動があたかも合流しているようにも見える。
地方支部が何かイベントを開催すると、それもオンラインなので他の地区にいる会員も参加できる。
これでは全国で開催しているのと変わらないのだ。
地方支部は存在すべきでない、と述べたいのではない。
気象には地域特有の現象もあるためそれについての見聞を広めることは地方支部の活動として扱いやすいテーマであろうし、近隣の地区に住んでいる人と話すだけで懇親が深まるものである。
地方を訪れる合宿の開催時にも地方支部と連携をとる場合がある。
地方支部担当に直接話を聞いてみたことはないが、支部を率いる彼らは苦悩しているかもしれない。
2.気象予報士試験対策の勉強会
学生会では、気象予報士試験(以下「試験」)対策の勉強会を定期的に開催している。
試験には、大量の図表をもとに解答をする「実技科目」がある。
別に課される学科科目との違いは、解答が1つに決まらないことが圧倒的に多いことと、合格前の最後の壁になることである。
学科科目に合格していないと実技科目は採点すらされないため、実技科目に合格するというということは試験にも合格するということを意味する。
そのため、学生会の試験対策勉強会では実技を扱うことが多い。
パンデミック前は、参加者(受験生)が持ち寄った教材や過去問を机に並べるなどして、既に合格している人と積極的な議論を交わしていた。
新たな疑問点が浮上すると、近くにいる人を捕まえて気軽にディスカッションをすることができた。
また、ホワイトボードなどを用いて講義形式で解説することもあった。
一方で、通常のオンライン会議システムの範囲内では、参加者全員が誰か1人の画面しか見ることができない。
全員で同じ議論に参加できるというメリットはもちろんあるが、一人ひとりが異なる知識や疑問点をもつ中で、きめ細やかなフォローをするのが難しいという問題が発生した。
さらに、ホワイトボードでできるようなちょっとした書き込みをした解説が難しいという点もある。
実技には解答に際し草稿や計算が必要なものも多いため、気軽な書き込みができないのは隔靴掻痒である。
確かに勉強会の時間内では完璧なフォローは困難であるが、それ以外の時間に可能な限りフォローする体制を整え始めている。
その1つが、学生会内の連絡手段として用いているSlackを用いた質問システムである。
2021年8月の試験を前に、私は、匿名で質問できるシステムを導入した。
この試験の前には数人に利用してもらったが、うまく回っているという手応えはある。
オンライン化によって勉強会のあり方も変化しており、随所に工夫が要求されるが、まだできることはあるのではないかと思案し続ける日々である。
3.それでも顔は合わせたい
概して団体は、その大小を問わず構成員の参画なくしては回らない。
学生会の場合は全体を統括する代表がおり、運営を担う幹部がおり、イベントやプロジェクトに参加してくれる会員・OBOGがいる。
活動を行う中で、建設的な議論を交わす。ときには意見や要望のやり取りがあるが、それらが次回の活動に生かされる。
学生会の運営が回るのに十分な数の会員・OBOGが参画してくれるためには、個々が学生会や別の構成員に信頼を置くことと、学生会が集まりたい場所として認識されることが必要である気がする。
しかし、オンライン化によりこのような関係の構築と維持が難しくなっていると感じる。
インターネットを介した画面上では人の表情をつまびらかに把握することはしばしば困難であり、この後どういう話を振ったら良いのかを迷う経験をした人は多いと思う。
接続が不安定になろうものなら、さらに困難を極める。
会話が印象に残らなければ、その人との関係はそこで終わる可能性が高い。
大人数が居酒屋で歓談する場面を思い出すと、アルコールの力はあるかもしれないが、誰かを捕まえて気兼ねなく歓談する雰囲気があった。
かつては懇親会で一度だけしか話していない人でも、数年後に再び会ったときに当時のことをきっかけして会話が進む、ということがあった。
これを先の信頼と表現すると大げさかもしれないが、パンデミック前にはこのような些細なことでも関係が構築されていた。
しかしオンライン化された現在、個々の関係、および学生会と個の関係の構築や維持はどれほどできているのだろうか。
難しいのは理解しているが、やはり顔は合わせたいものだ。
学生会は2021年4月に設立10周年を迎えた。
私が代表だった2020年のはじめ頃から、10周年の先の新時代を見据えて運営上の様々な刷新に着手していた。
しかし、未曾有のパンデミックによって世界ごと新時代を迎え、学生会も図らずも大きな方針転換を迫られた。
パンデミックが始まってからまだ1年半ほどであるため、団体の運営にとって何が最適解かを完全に理解している人はいまい。
学生会としても日々様々なことを考え、この情勢に適応しようと奮闘しているところである。
小稿では、1年半の現時点で私が感じている運営上の点を数項目に絞って述べたにすぎない。
小稿で述べたこと以外にも、今後様々な困難に直面することだろう。
奮闘の日々は、まだしばらく続きそうだ。
気象予報士学生会/気象予報士
山本 晃立 (東京大学大学院)
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